書類選考のAI化で面接工数25%削減|ES自動評価を作ったリクルーターの実践事例
インターンシップ選考に約2,000件の応募が届き、5名の担当者が目視で書類選考を行う。そんな現場で、あるフリーランスリクルーターが書類選考にAIを入れ、書類選考の工数を実質ゼロにし、前年同期と比べて面接工数を25%減らしました。
※完全にすべての判断をAIに任せたのではなく、応募書類をAIに読ませ、採用要件に照らした一次判定とその理由を出させて、合否を決めたのは人です。
書類選考の改善が、なぜ面接の工数まで減らしたのか。本記事では、仕組み、25%と98%という数字の中身、AIの判定がずれるパターン、自社で再現する手順を紹介します。書類選考へのAI活用を検討している企業は、自社で取り入れる際の参考にしてください。
事例の概要
| 項目 | 内容 |
| 対象 | インターンシップ選考の応募 約2,000件 |
| 導入前 | 担当者 約5名による目視のES判定 |
| 使ったもの | Googleスプレッドシート(GAS)×Gemini |
| 費用 | AIの利用料は1件あたり5〜6円 |
| 結果① | 書類選考の工数が実質ゼロに。面接工数は前年同期比で 25%減 |
| 結果② | 人が通過させ、AIが「不合格」と判定した約150件のうち147件(98%)が、次の選考で不合格 |
※数値は事例を担当したリクルーターへの取材に基づいており、企業名は伏せています。
書類選考のAI化とは
書類選考のAI化とは、ES(エントリーシート)や履歴書・職務経歴書を生成AIに読ませ、採用要件に照らした一次判定とその理由を出させる取り組みです。
AIが合否を決めるわけではありません。AIの判定は判断の材料として扱い、最終的な合否は採用担当者が決めます。
AIに任せる業務と人が担う業務
書類選考の中には、AIが得意な作業と、人が担うべき判断があります。導入前に切り分けておきましょう。
| AIに任せやすい作業 | 人が担う判断 |
| ESの内容を要約する | 採用要件と評価基準を決める |
| 評価基準と照らして一次判定を出す | 「保留」や当落線上の応募者を確認する |
| 判定の根拠となった記述を示す | 最終的な合否を決める |
| 大量の応募に同じ基準を当てる | AIの判定がずれたときに基準を直す |
従来の書類選考との違い
目視だけの書類選考と比べると、大きく変わるのは「判定のそろい方」です。
| 比較項目 | 目視だけの書類選考 | AIの一次判定+人の確認 |
| 判定のそろい方 | 読む人やその日の件数で揺らぐ | 全件に同じ基準が当たる |
| 判定の理由 | 担当者の頭の中にあり、残りにくい | AIが根拠となる記述を書き残す |
| 人が読む件数 | 全件 | 「保留」と抜き取り確認が中心 |
| 追加の費用 | 担当者の人件費 | AIの利用料(本事例では1件5〜6円) |
結論:面接工数が25%減ったのは、AIの「不合格」判定を信頼できたから
書類選考が速くなったからではなく、面接に進む人数を、根拠を持って絞れるようになったからです。
流れは3段階でした。
- 原因:5名の目視判定では評価基準が揺らぎ、本来は落とすべき応募者も面接に進んでいた
- 検証:人が通過させた応募者を、あとからAIで判定し直した。AIが「不合格」とした約150件のうち、147件が実際に次の選考で不合格だった
- 結果:AIの「不合格」判定を信頼して面接に進む人数を絞り、面接工数が前年同期比で25%減った
25%減のもう一つの条件は、運用する人の力量でした。担当リクルーターは「うまくいかない本質は、AIや応募者よりも運用担当者の造詣にある」と話します。
詳しくは後半で紹介します。
導入前:5名の目視判定で、評価基準が揺らいでいた
導入前の課題は「人によって判定が変わること」でした。
インターンシップ選考のESは、約5名の担当者が分担して目視で合否を判定していました。同じ評価基準を使っていても、読む人やその日の件数で判断は揺らぎます。
揺らぎは、書類選考だけの問題では終わりません。迷ったら通すという判断が重なると、要件に合わない応募者まで面接に進みます。その分だけ面接官の時間が消えていきました。
つまり、面接工数を減らすには、書類選考の作業を速くするよりも、判定のばらつきをなくす必要があったのです。
書類選考にかかる工数の目安
応募が2,000件あると、書類選考だけでも大きな工数になります。たとえばESを1件を読んで判定するのに3分かかると仮定すると、次のようになります。
| 項目 | 目視だけの場合(試算) |
| 応募件数 | 2,000件 |
| 1件あたりの判定時間 | 3分(仮定) |
| 合計 | 2,000件×3分=6,000分=100時間 |
| 5名で分担した場合 | 1人あたり20時間 |
同じ件数をAIで一次判定すると、利用料は2,000件×5〜6円で約1万〜1.2万円です。本事例では、目視で全件を読む作業がなくなり、書類選考の工数は実質ゼロになりました。
ここで見落としやすいのが、面接の工数です。本来は落とすべき応募者が1人面接に進むごとに、日程調整、面接官の時間、評価の入力が増えます。書類選考の精度は、その後の選考全体の工数に影響してきます。
やったこと:GAS×Geminiで1件5〜6円のES自動評価を作る
使ったのは、専用の採用ツールではなくGoogleの仕組みです。Googleスプレッドシートに集めたESを、GAS(Google Apps Script)経由でGeminiに渡し、評価を書き戻します。AIの利用料は1件あたり5〜6円です。
仕組みの流れ
- 応募者のESをスプレッドシートに1行ずつ集める
- GASが1件ずつGeminiに渡し、採用要件に照らした判定と理由を受け取る
- 判定と理由をシートに書き戻す
- 担当者が判定と理由を確認し、面接に進む人を決める
Geminiには「カスタムGem」という、前提となる指示を保存しておく機能があります。採用要件や判定のルールをそこにまとめ、AIが事実にないことを書く「ハルシネーション」や、余計な判断を加えることを抑えました。
あえて単純な指示から始めた
最初から作り込んだ指示文は使いませんでした。あえてシンプルな指示で動かし、誤判定や例外を一つずつ洗い出しています。どこでAIが間違えるかが分かれば、直すべき場所も分かるからです。
そこから改良を重ね、最終的な指示文は6万字を超えています。ただし、指示を増やせば精度が上がるわけではありません。AIがどんな場面で判断を誤るのか、その原因は何かを見極めて直す必要があります。その見極めには、AIの特性だけでなく、採用要件や評価基準、候補者を見極める判断軸といった採用実務の知見が欠かせません
「合」「否」の2択にしない
判定を「合」「否」の2つだけにすると、当落線上の応募者もどちらかに振り分けられます。迷う応募者は「保留」として出させ、人が重点的に確認すると、誤判定を拾いやすくなります。
社内で回せるように手順を残す
使い方は手順書と操作動画にまとめ、企業の担当者が自分で運用できる状態にしました。リクルーターがいなくなっても、仕組みが社内に残ります。
GASを書ける人がいなくても、考え方は同じです。まずは数十件のESを生成AIの画面に貼り付け、人の判定と比べるところから試せます。ただし、応募者の個人情報の扱いには注意が必要です。
結果:面接工数は前年同期比25%減、AIの「不合格」は98%が当たっていた
成果は3つあります。書類選考の工数、面接工数、AIの判定の精度です。それぞれ何を比べた数字かを押さえると、面接まで減った理由が見えてきます。
書類選考の工数は実質ゼロに
これまで約5名で全件を目視していたESの判定をAIの一次判定に置き換え、目視で全件を読む作業がなくなりました。担当リクルーターは「面接工数の削減もそうですが、そもそも書類選考の工数を実質ゼロにできていることの効果の方が大きいかもしれません」と話します。
面接工数25%減の中身
インターンシップ選考の応募約2,000件が対象です。4〜9月の面接工数を前年の同じ期間と比べると、25%減っていました。
AIの「不合格」判定は98%が当たっていた
この数字は、人の判定とAIの判定が食い違った応募者だけを調べたものです。
| 項目 | 件数 |
| 人が目視で「合格」とし、あとからAIが「不合格」と判定した応募者 | 約150件 |
| うち、次の選考で不合格になった応募者 | 147件(98%) |
| うち、次の選考で合格した応募者 | 3件 |
| その3件のうち、インターンシップで参加水準に達していないと評価された応募者 | 1件 |
つまり、人が通したのにAIが落とした応募者は、ほとんどが面接で落ちていました。AIの「不合格」に従っていれば、約150件の面接の大半は不要だったことになります。
98%という数字の読み方
98%は「AIが合否を98%当てた」という意味ではありません。AIが「不合格」とした判定のうち、次の選考の結果と一致した割合です。
書類選考にAIを入れるとき、最も怖いのは良い応募者を落とすことです。この事例では、AIが落としたのに次の選考で合格したのは約150件中3件でした。この「取りこぼし」をどこまで許すかは、企業ごとに決める必要があります。
なお、人が不合格にした応募者は面接に進んでいないため、この検証の対象には入っていません。
自社で検証するときは、次の2つを並べて見るのがおすすめです。
- AIが「不合格」とした応募者のうち、実際に不合格だった割合
- AIが「不合格」としたのに、実際には合格した応募者の数
AIの判定がずれる3つのパターン
改良の途中で、AIの出力が想定とずれるケースには3つの傾向がありました。どれもAIの性能ではなく、指示の作り方が原因です。
| パターン | 起きること | 対策 |
| 採用要件や合格基準の言葉があいまい、または厳しすぎる | 判定がぶれる。厳しすぎると良い応募者まで落とす | 「主体性」などの言葉を、ESで確かめられる経験や行動に置き換える |
| 「合」「否」の2択だけで、当落線上を検証させていない | 迷う応募者も無理にどちらかに振り分けられる | 「保留」を設け、人が重点的に確認する |
| 定義同士が衝突する、またはどの定義にも当てはまらないケースがある | AIが独自に解釈して判定する | 基準を「もれなく、だぶりなく」に近づけ、当てはまらない場合の扱いを決める |
うまくいくかは「運用担当者の造詣」で決まる
担当したリクルーターは、うまくいかない本質をこう話します。
結論、AIや応募者よりも「運用担当者の造詣」がうまくいかないことの本質にあると思います。
上の3パターンに気づく勘所がないと、なぜうまくいかないのかどころか、うまくいっていないことにも気づけません。
直し方にも注意が必要です。誤判定が出るたびに条件を足していくと、指示文はつぎはぎになります。AIが読み取る負担が増え、誤解釈や新たな誤判定につながるからです。どこを直してよくて、どこを触ってはいけないかを見極める目が要ります。
うまくいかない運用には、次の共通点があります。
- 運用担当者が、採用戦略や選考設計の考え方を知らない(当事者ではない)
- AIへの理解が浅いまま、合格例と不合格例をいくつか見せるだけの単純な指示で対処しようとする
逆に、採用とAIの両方を分かっている人が運用すれば、何をどう直せばよいかがはっきりします。その結果、出力が安定します。ツールを選ぶ前に、誰が運用するかを決めることが、書類選考のAI化で一番大きな分かれ目になります。
WHOMでは、書類選考の評価基準づくりからAIの運用設計まで、採用とAIの両方に詳しいリクルーターがご支援します。
書類選考をAI化するメリットと注意点
ここまでの事例をもとに、書類選考をAI化するメリットと注意点を整理します。
メリット
判定の基準がそろう
全件に同じ評価基準が当たるため、担当者ごとの判定の揺らぎが減ります。本事例では、約5名の目視判定で生じていた揺らぎが導入のきっかけでした。
面接に進む人数を根拠を持って絞れる
AIは判定の理由を書き残すので、なぜ通過・不合格にしたのかをあとから確かめられます。理由が残ることで、面接に進む人数を自信を持って絞れます。
少ない費用で全件を判定できる
本事例のAIの利用料は1件あたり5〜6円です。専用の採用ツールを入れなくても、普段使っているGoogleの仕組みで始められます。
注意点
良い応募者を取りこぼす可能性がある
本事例でも、AIが「不合格」とした約150件のうち3件は次の選考で合格しています。「保留」の全件確認や、「不合格」の抜き取り確認を組み合わせましょう。
応募者の個人情報の扱いに配慮が必要
応募書類には個人情報が含まれます。応募者の同意を得たうえで、会社が認めたツールを使い、セキュアな環境を整えてから使いましょう。本事例でも、応募者からの同意の取得や会社指定のツールの利用など、個人情報に配慮した運用をしています。
成果が運用担当者に左右される
前の章で紹介したとおり、評価基準の作り方や指示文の直し方で結果は大きく変わります。社内に運用できる人がいない場合は、外部の力を借りるのも選択肢です。
自社で同じ効果を出すための4ステップ
この事例を再現する場合、いきなり本番の選考で使わず、過去の応募で検証してから導入するのことをリスクの観点からおすすめします。
- 評価基準を言葉にする:必須条件と歓迎条件を分け、あいまいな言葉をESで確かめられる経験や行動に置き換える。どの基準にも当てはまらない場合の扱いも決める
- 過去の応募でAIと人の判定を比べる:単純な指示から始め、人とAIの判定が食い違った応募者を中心に、その後の選考結果と照らし合わせる
- 人が確認する工程を決める:「保留」は全件、「不合格」は抜き取りで人が確認するなど、どこまで人が見るかを決める
- 面接工数を導入前と比べる:前年同期など比べられる期間を決め、面接工数と、AIが落として実際には合格した応募者の数を記録する
書類選考のAI化が向いている企業・向いていない企業
書類選考のAI化は、どの企業でも同じ効果が出るわけではありません。自社の選考がどちらに近いかを確認しましょう。
向いている企業
- 新卒やインターンシップなどで、応募が数百〜数千件ある
- 複数の担当者で書類選考を分担しており、判定のばらつきが気になっている
- 採用要件を言葉で説明できる(または、これから言葉にする意思がある)
- 書類を通過したのに面接で落ちる応募者が多く、面接官の負担が大きい
向いていない企業
- 応募が月に数件程度で、人が全件を読んでも負担が小さい
- エグゼクティブ採用など、経歴の解釈に専門的な判断が要る
- 採用要件が固まっておらず、評価基準を決められない
向いていない企業でも、応募書類の要約など、一部の作業でAIを使うことはできます。
導入前に決めておくこと
応募者の書類をAIに渡す前に、最低限次の4つを決めておきます。
- 合否を決めるのは誰か:AIの判定は材料として扱い、最終的に合否を決める人を決める
- AIが「不合格」とした応募者をどう扱うか:人が見直す範囲と、取りこぼしをどこまで許すかを決める
- 応募者の個人情報をどう扱うか:個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、生成AIに個人情報を入力する場合は利用目的の範囲内かを確認し、入力したデータが機械学習に使われないことを十分に確認するよう求めています。応募者から同意を得る方法、使うツール(会社が認めたものに限る)、判定に必要のない個人情報をAIに渡さない運用を決める
- 応募者にどう説明するか:選考でAIを使うことを、募集要項や個人情報の取扱いの案内でどう伝えるかを決める
書類選考のAI化に関するよくある質問
AIで書類選考をすると、良い応募者を落としませんか?
落とす可能性はゼロにはなりません。この事例でも、AIが「不合格」とした約150件のうち3件は、次の選考で合格しています。当落線上の応募者を「保留」として人が確認し、「不合格」も抜き取りで見直すことで、取りこぼしを減らせます。
どのくらいの応募件数から効果が出ますか?
一律の目安はありませんが、応募が多いほど効果は大きくなります。この事例は約2,000件を約5名で判定していた選考でした。複数の担当者が分担していて、判定のばらつきが課題になっている選考に向いています。
エンジニアがいなくても同じ仕組みは作れますか?
検証までなら、生成AIの画面にESを貼り付けるだけでも試せます。数百〜数千件を処理するには、GASなどでの自動化か、AI機能を持つ採用ツールが必要です。ただ、成否を分けるのはプログラムよりも、評価基準の作り方と運用担当者の力量です。
応募者に「AIで選考している」と伝える必要はありますか?
伝え方は導入前に決めておきましょう。本事例では、プライバシーポリシーに明記したうえで応募者の同意を得ています。少なくとも、応募者の個人情報をAIに渡すことが、個人情報の利用目的の範囲内かは確認が必要です。具体的な記載方法は、法務担当者や専門家に確認してください。
AIで書かれたESも、AIで正しく評価できますか?
評価の基準を、文章のうまさではなく、書かれている経験や行動に置いておきます。「具体的な経験が書かれているか」で判定すれば、整った文章だけで合格にはなりません。
まとめ:面接工数を減らす鍵は、書類選考の基準づくりと運用する人
この事例では、書類選考の工数が実質ゼロになり、面接工数も前年同期比で25%減りました。面接工数が減ったのは、AIの「不合格」判定が次の選考結果で98%一致し、面接に進む人数を根拠を持って絞れたからです。
その前提には、言葉にした評価基準、単純な指示から始めて誤判定を洗い出す進め方、そして採用とAIの両方を分かった運用担当者がいました。まずは過去の応募で、AIと人の判定を比べるところから始めてみてください。
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この事例を担当したリクルーター
A氏(WHOM登録リクルーター)
フリーランスの採用コンサルタントとして18年間、ベンチャーから大手企業まで幅広い企業の採用を業界問わず支援。新卒採用のプロジェクトリーダーや採用責任者の経験を持ち、採用戦略の設計から実務の運用までを一貫して手がけられる。近年は採用業務へのAI活用と導入支援に力を入れ、採用業務の効率化と高度化をご支援されている。
