ジョブローテーションとは、戦略的に社員の部署移動や職務変更を定期的におこない、社員の人材育成に役立てる制度です。
多くの日本企業は、ジョブローテーションを効果的に導入し、柔軟な発想・多様な知識・人脈を活かして、従業員を育成してきました。
しかし「どのように実施するのか」「自分の企業に向いてる取り組みなのか」と悩む人事の方もいるでしょう。
本記事では、ジョブローテーションの目的やメリット・デメリット、向いている企業について解説します。人材の配置に悩んでいる人事の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは、定期的に部署を異動したり職務を変更したりして社員の育成を図る制度です。さまざまな部署や業務を経験すると、社員の視野が広がり、新たな適性を発見できるでしょう。
社員の能力開発をおこなう仕組みとして、大企業を中心に日本でも広く浸透しています。以下では、ジョブローテーションの概要について解説します。
実施期間
ジョブローテーションは通常、短い場合では半年、長い場合でも数年といったスパンで人事異動や職務変更を実施します。
単なる異動や変更ではなく、社員が成長するためにどのような配置転換をすべきか戦略的な配置転換を実施するため、長期的な視点で適切に計画し実施する必要があります。
また、社員が新たな業務に適応するまでには時間がかかるため、十分なサポートやトレーニングが必要です。
実施状況
独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した『企業における転勤の実態に関する調査』によると、過半数の企業がジョブローテーションを実施しており、正社員の規模が大きいほど割合が高くなっています。
大規模な企業の割合が高い理由は、多くの社員がそれぞれが異なる業務に挑戦し、組織全体の力を高め、社員の成長を促進することを重視しているからと考えられます。
また、規模が大きいことで余裕が生まれ、人員の配置や調整がしやすくなり、異なる部門やプロジェクトへの異動がスムーズに行える環境が整いやすいといえるでしょう。
社内公募との違い
社内公募とは、企業が必要とする職種やポジションについて条件を公開し、希望者を公募してから人事配置を実施する制度です。
ジョブローテーションと同様に人事戦略にもとづいて実施されるものの、選定方法が異なります。社内公募では、希望者が自ら特定の業務や役職を志願しその中から最もふさわしい人材を選定します。
これに対してジョブローテーションは社員の意思に関係なく、全社員のキャリアや志向性を考慮して適切な人材を選出します。
人事異動との違い
人事異動とは、組織の中で社員の役割を変更する制度です。たとえば社員の地位の昇格・職務や勤務地の変更・定年退職・解雇など、社員の意思とは関係なく配置転換を行います。
ジョブローテーションと人事異動は、社員の部署や役割を変更する点では同じですが目的が異なります。
人事異動は経営戦略にもとづいて部署の強化や欠員補充、組織全体の活性化などの目的で実施されるのが一般的です。
一方で、ジョブローテーションはそれに加えて人事戦略の一環・社員のキャリア発展・人材育成なども含まれます。
ジョブローテーションを行う目的
ジョブローテーションを行う目的は、以下のとおりです。
- 人材育成
- 属人化への防止
- 仕事への意欲向上
ジョブローテーションを行う目的を理解していないと、かえってコストがかかったり企業の成長が止まってしまったりしてしまいます。
目的に沿って計画的に実施しましょう。
人材育成
ジョブローテーションは、新入社員の人材育成の目的があります。新入社員にさまざまな業務を経験させると、適性や本人の意向を見極められるため人材の育成がしやすくなります。
また組織図だけではわかりにくい各部署の具体的な業務内容や、異なる部署間の関連性をジョブローテーションによって理解できます。
よって、複数の部署の連携を実感し各業務の役割や重要性を把握できるため、組織の一員としての意識が高まります。
新入社員だけでなく、将来の企業運営に携わる幹部候補社員の育成として実施する場合もあります。幅広い業務の知識やスキルをつけると、企業の仕組みや部署ごとの役割を俯瞰できる人材を育てられるでしょう。
人材育成では企業構造の理解が必要なため、新入社員の育成目的のジョブローテーションより、長期的な視野を持った計画的な部署異動が大切です。
属人化の防止
属人化とは、同じ社員が長期間同じ業務を担当することで、その社員しか業務を理解していない状態です。
その社員にしかできない仕事が多ければ、一人の負担が大きくなり他の社員がサポートできないため、業務の質が低下してしまいます。
また当該社員が退職した場合、後任者への引き継ぎが難しくなり、業務のノウハウが継承されない可能性が高まるでしょう。
ジョブローテーションを実施すると、このような属人化を防止できます。
複数の社員が同じ業務を遂行できるようになり、必要なときに代替要員を確保できるだけでなく、業務が一極集中することが減るため、ワークライフバランスを整えやすくなります。
仕事への意欲向上
一つの部署に長期間在籍すると業務がルーティン化し、社員が成長を実感しにくくなるリスクがあります。
ジョブローテーションによって異なる部署や職務に携わると新たな知識を得る楽しみを感じ、モチベーションの向上が期待できます。
ただし、これがすべての社員にとって有益なわけではありません。仕事の意欲を向上させるには、個別のマネジメントが必要です。
チャレンジ精神旺盛な社員や昇進を目指す社員にとっては、さまざまな業務に取り組み企業の仕組みを学べるため、ジョブローテーションがモチベーション向上に効果的であるといえるでしょう。
ジョブローテーションを実施するメリット
ここでは、ジョブローテーションを実施するメリットを企業側と社員側の立場に分けて解説します。ジョブローテーションの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
企業側
ジョブローテーションの企業側のメリットは、イノベーションや新しいアイデアが生まれやすい点です。部署内で人間関係が固定化されると、社員の視野が狭まり変革が起こりにくくなってしまうでしょう。
ジョブローテーションによって、部署の垣根を越えて交流し個々の知見を増やせば、思いつかなかったアイデアや課題に気づきやくすなり、イノベーションにつながる場合もあります。
ジョブローテーションは、社員の適性を正確に見極められるのもメリットとしてあげられます。同時に、社員の能力開発も促進され、適材適所の人材配置がより効果的に行われるでしょう。
さらに、ジョブローテーションは新入社員の早期退職を防止する可能性があります。新入社員がさまざまな業務を経験することで、自身の興味や適性に合致する業務に出会う確率が高まるでしょう。
ジョブローテーションは入社後のミスマッチを軽減し、社員の定着率が向上させる効果があります。
社員側
ジョブローテーションにより、特定の部署に限定されない幅広い人間関係を構築できます。
たとえば、新しい事業展開のときには、異なる部署出身者とのつながりを通じて、事業に関する専門的なアドバイスを得られたり、必要な人材の発見や活用がしたりできます。
さらに他部署の社員とも関係が深まると、所属部署内で発生した課題に対しても客観的なアドバイスを受けられます。
異なる視点からの意見は、見落としていた課題や新しいアプローチが浮かび上がり、効果的な解決策を見つけられるでしょう。
ジョブローテーションを実施するデメリット
ジョブローテーションの実施は、メリットもあればデメリットもあります。自身の企業の現状と照らし合わせながら、導入するかどうか検討しましょう。
企業側
ジョブローテーションは数ヵ月から数年の期間で部署や職務を定期的に異動させるため、人材の専門性を高める必要がある場合は適していない可能性があります。
高度な知識やスキルをもった人材を育成したい場合は、他の育成方法を検討しましょう。
また、ジョブローテーションは異動のたびに育成が必要なため、指導者の人件費やマニュアル作成などのコストがかかります。
もしジョブローテーションの対象者が離職してしまうと、コストに対する損失が大きくなるでしょう。
ジョブローテーションを実施するときは、対象者が目的を理解しているかどうかや成果がどの程度でているかなどの進捗確認が大切です。
社員側
スペシャリスト志望で「専門性を高めたい」と考える社員にとっては、ジョブローテーションが成長の妨げになる可能性もあります。
専門性を深めることに焦点を当てる志向の社員にとっては、幅広い経験と視野を持つことへのメリットを感じにくくなるでしょう。
また、異動により信頼関係をゼロから築かなければなりません。さらに新しい部署での調整や引越しの手間など、職場環境の変化が社員にとって負担になる場合もあります。
ジョブローテーションに向いている企業
ジョブローテーションに向いている企業は、各部署の関連性が高い企業といえるでしょう。
一つの事業に対して複数の部署が連携する場合、関わる機会が増えるため、社内コミュニケーションが欠かせません。
異なる部署での経験により各部署の関連性や協力体制を実感し、業務が円滑に進む可能性が高まります。
ジョブローテーションに不向きな企業
ジョブローテーションに不向きな企業は、各部署の専門性が高い企業といえるでしょう。なぜなら、高度な専門性を必要とする業務はマニュアル化が難しく、緻密な指導が必要だからです。
異動後に、指導をしたり特殊な対応が必要だったりすると業務効率が著しく低下する可能性があります。
ただし、IT・製造・デザインなど異なる専門分野が複数存在する企業では、ジョブローテーションを導入すると異なる分野の社員同士が交流し、組織に柔軟性が生まれる場合があります。
ジョブローテーションの効果を最大限に高める方法
ジョブローテーションの効果を最大限に高めるには、社員にジョブローテーションの目標を理解してもらいましょう。
ジョブローテーションが意義やその経験が将来どのように業務が役立つかを伝え、社員のモチベーションの維持が重要です。
また、ジョブローテーションによって異動する社員は、新しい環境に適応しなければならず負担が大きくなります。そのため、企業がサポート体制を整える必要があります。
たとえば、異動先のわかりやすいマニュアルを準備したり指導者を増やしたりするなど、スムーズに業務を開始できるようにしましょう。
異動する社員のワークライフバランスを考慮したり、異動が必要以上の頻度にならないようにしたり、ジョブローテーションの対象社員への配慮が大切です。
ジョブローテーションは企業の成長につながる施策
ジョブローテーションとは、部署異動や職務変更を定期的に実施する施策です。ジョブローテーションは大企業を中心に多くの企業が取り入れています。
ジョブローテーションを実施する目的は、以下のとおりです。
- 人材育成
- 属人化の防止
- 仕事への意欲向上
さまざまな部署や職務を経験することにより、社内のコミュニケーションが円滑になり社員の能力開発やイノベーションにつながります。
一つの事業に対して複数の部署が関連する企業は、関連性や連携について体感し企業の仕組みを理解できるため、ジョブローテーションの実施に向いているといえるでしょう。
しかし、各部署の専門性が高く高度なスキルや知識を持った人材を育成したい場合、ジョブローテーションの実施が向いていないこともあります。
ジョブローテーションを検討している方は、自分の企業が向いているかどうか考えてみましょう。